《小憩》遊び道具でもあった昭和の缶詰

 缶詰と言えは幼少の頃、風邪などで床に伏せっている時の白桃缶やパイン缶、ミカン缶、そして大人になってからは友人のアパートで酒のつまみとして鯨のベーコンとともによく食したニューコンビーフ(現ニューコンミート)、オイルサーディン、サケ缶、サンマやイワシのかば焼きなどが印象深い。
 昔の缶詰は今のようなイージーオープンではなく、缶切りでクイックイッと開けたのだが、小刻みに缶切りを捻り、切り口がなるべく滑らかに丸くなるように工夫したものだ。蓋を完全に切り取り、金鋏で切って形を整え、手裏剣を作った記憶もある。友だちと互いに投げ合ったが、今どきの優しい親が聞いたら卒倒することだろう。また、空き缶は缶蹴りには欠かせないし、紐を付けた空き缶を履いて競走したり、時には釣ったクチボソやオタマジャクシを入れる器にもなった。
 缶詰は加工食品の原点でもあるが、その優れた特長のひとつとして、製造してから常温でおよそ3年間という長期の賞味期限がある。さらに、これはあくまで「おいしく食べられる」期限であって、その日付を過ぎたからといってすぐに食べられなくなってしまうことではない。缶詰は密封の後、その主要な製造工程の加熱殺菌によって、食品の腐敗の原因となる微生物を殺滅している。このため、保管中に新たに微生物が侵入しない限り、賞味期限の経過後についても開封しなければ5年、10年、それ以上でも中身が腐ることなく長期間保存ができる。果実缶詰などは、「製造後しばらく経った方が味が整っておいしい」などと言うファンもいる。
 最近、レトルト食品や冷凍食品が増え、缶詰の消費は往年に比べて減っている。しかし、長期にわたる保存性、フタを開ければすぐに食べられる利便性、缶詰ならではの風味など、他の加工商品にはない良さが缶詰にはある。グルメ缶詰も定着、缶詰BARも珍しくなくなった。ある意味、今後が楽しみな加工食品の原点だ。